演劇ドラフトグランプリ

614日に行われた演劇ドラフトグランプリの感想ブログです。

ただ面白いイベントだっただけじゃなくて、今後の演劇業界におっきな影響を与えるのでは!と、浅学ながらに思いまして、何が面白かったのか、何が凄かったのかを自分なりに書いてみようと思います。

 

演劇ドラフトグランプリとは、以下のルールのもと、事前のドラフト番組で選ばれた演出家・役者たちが4組に分かれて演劇で戦うお祭りです。

<公演ルール>
・各劇団の演目は20分以内。
・脚本は各劇団オリジナルで作成。
・衣裳は1人1ポーズのみとし、衣裳チェンジはなし。
・大道具は使用不可。役者が自分で動かせる道具のみ使用可。

 

まず一つめに面白かったことは、普通に4つの作品が面白かったこと。そして4つの作品がどれも似ていなかったことです。中屋敷さんが演出を務める「IDcheckers」がトップバッターで青春×野球の起承転結がはっきりした話を上演していました。この時点で観客(私)は「なるほど!今日は起承転結がある色んなお話が見れる日なんだな!」と錯覚する。そこで西田さん演出の「打」がとんがりまくった演劇を作り観客を混沌におとしいれる。ここですでに高低差がすごいんですよ。わかりやすく商業的に成功しそうな綺麗にまとまった演劇じゃなくて、メタと物語を織り交ぜて観客が座ってる空間を変容させるような作品を見せつけてくる。ここで私は混乱するとともに、演劇ドラフトグランプリが想像よりも懐が深く、色んな表現が見れる場所であることを理解します。そして植木さん演出の「超mix」。起承転結の「起」「承」が限りなく短く、身体表現マシマシの話でした。演劇っていうか、ダンスも演技も全部織り交ぜた身体表現だ〜〜!ノリノリになる!明らかにこの辺で観客の反応ほぐれてきましたよね。MCさんの言うことにもリアクションしてくすくす笑ったりするようになりましたよね。場がほぐれたところでおよそ20分とは思えない密度の伊能忠敬の偉業を描いた大河で感動のフィナーレ。44様の表現が見れる、本当に懐の深いイベントだった。演劇の作品として純粋に面白い作品が集まったことが一番すごいことだったな〜と思います。

20分で演劇を成立させるのはとても難しいことだそうで、各チームで20分以内に収めるために何かしらの要素の省略がされていたと思います。何を省略したかで逆説的にそのチームが何を演劇の核と捉え何を大事にしていたのかがわかり、一層4者の差別化が進んでいたように思えました。私の勝手な想像ですが、1つの作品で色んな要素を詰め込まなくても4つの演劇でバランス取れてればイベントが成立するので、演劇ドラフトグランプリでは1作品ごとの冒険がしやすいのではないでしょうか。全部打くらい振り切ってたとしても、振り切り方の方向性がバラバラでさえあれば結果的にバランスが取れてめちゃめちゃ面白いイベントになりそう。20分で起承転結の「転」の部分だけやる演劇があってもよい。体を動かさないで朗読をしてもよい。セリフが無くてもよいかも。演目ごとに観客として使う脳みその種類が違うから、五感全部使って44様の演目を楽しむようなイベントにもなり得そうだし、喜怒哀楽全部の感情にさえせてもらえるイベントにもなりそう!何をやっても面白くなりそうだからいろんな実験ができる。しかもその実験が商業として成立しそうな面白いスキームだなと思いました。私はこのイベントが続いて、もっといろんな演劇を見てみたいし、票がバラバラに割れるところが見てみたい。このイベントの第二回を荒牧さんが、ネルケがどんな風に舵切っていくのか、今からとても楽しみです。

 

他に面白いなと思ったポイントは観客の投票先です。グッズの売れ方や自分の席の周りにいたオタクの様子を見るに、一番ファンの数が多そうだったのは超mixだったのではないかと思うのですが、優勝したのはズッ友でした。それが面白かった。4人の演出家たちがそれぞれ全く違う演出をしてきたことも、オタクが安易に自分の推しに投票せずにみんなそれぞれ考えて決めていたであろうことも!投票結果がどうあれ、オタクが真剣に演劇と向き合ったから生まれた出来事だったな〜と思います。

あと私、審査員はお茶を濁すようなコメントをしていくのではないかと思っていました。(すみません)いくら2.5が商業的な成功を収めていようと、2.5好きですと非オタに言うと「あ~~~こんなのが好きなんだね」と若干引き気味のリアクションをされることも多い(そういう時は理性的にプレゼンするように努めてる)。だから2.5出身の俳優のことは内輪しか評価してくれないんじゃないかという偏見を私は抱えていたのですが、審査員たちからは「私は演劇の素人ですが」という前置きがあった上で、自分の分野に置き換えたり、自分の経験と照らし合わせながら真摯にコメントをしてくれていたように感じました。審査員の人選はシアコンとアベマがお金に物を言わせたのでは…?と疑いたくなるような人選でしたが、審査員のみなさんがどの演目にも丁寧にコメントしてくれたことで、「豪華審査員陣!」という印象ではなく「芸術に関わるプロたち」という印象に変わったなあと思います。演者も審査員も観客も全員真摯だったことがドラフトをより良いイベントにしていたと思いました。

 

最後にもう一つ、演劇ドラフトグランプリが演劇界全体に影響を与えるのでは~と思ったポイントで締めくくらせてください。 

キラキラ非オタOLの先輩に、今日はどんなイベントに行くの?と聞かれた時、なぜ楽しみなのかとても説明しやすかった。いつもだったら「推しの死生観が垣間見えて」とか「好きな演出家が見たことない演出してて」とか、知らない人からしたら意味わからんレコメンポイントしか言えなかったのですが、今回は「ドラフトでチームに割り振られた俳優たちが日本武道館44様の演劇を披露し観客はそれに投票する」という、とっても伝わりやすい訴求ポイントが伝えられました。仮に演劇の内容がつまらなかったとしても、このスキームである程度の面白さは担保されてると思う。だから知らない人にも説明しやすい。そして、ちょっとだけ演劇に興味あるけど、いきなり観劇に行くのはハードル高いな~と思ってる人も参加しやすい。最低限の面白さが担保されているため。そういう特徴も演劇ドラフトグランプリのすごかった所だと思います。

演劇でお金を稼いでいく上での障害は、演劇業界全体の観客の絶対数の少なさだと言われていたのが通説で、アニメや漫画を原作にする2.5次元舞台が多界隈から人を連れてくることで観客数を増やすことに貢献したと認識しています。そんな土壌がある中でさらに演劇を開けたものにしていくのが、演劇ドラフトグランプリのようなイベント形式の上演方法なのではないかと思いました。数年後に2.5次元舞台がサブカルチャーではなくクールジャパンと呼ばれる時代が来るとしたら演劇ドラフトグランプリはその節目の一つとして数えられることになると思います。

 

ド平日の夕方早めの時間の開演でしたが頑張って行って良かった~~!!と思える、あらゆる意味でめちゃめちゃ面白いイベントでした。第二回開催も心待ちにしています!!!